瞳堂の月下独酌―blog―

瞳堂主人のブログです

送り火

昔、下宿の二階から大文字を見た。
下宿のばあさんが、「弘法はんが書かはったんやて、達筆やなぁ」と手を合わせたのを覚えている。
今まで何度かチャンスはあったが「見られるのに見ないのが通だ」なんて言って、ダラダラと呑んで過ごした。
ふと、今年は観光客じゃなく、お盆を送る人のつもりで見ることにした。
8月16日。
いつもより少し涼しいが、人であふれる賀茂川べりに風はなかった。
静かに火がついた。
思ってたのよりオレンジ色だなと思ったが、昔見たのより少し良い。
「どうか、どうか…」その先が出ず、何も思わないまま手を合わせた。
この河原には、多くの人がそれぞれの思いを胸にここにいる。
送り火はやはり見るものではない。心を向けるものなんだ。
そこんとこだけは、昔も今も変わらないんだろう。
ただ、これがもし旧暦七月十五日の盆の宵なら、今頃あの山の上に、丸い月が顔を出していたかも知れない。