瞳堂の月下独酌―blog―

瞳堂主人のブログです

電話

小さい頃、うちには電話がなかった。
学校の連絡網には(呼)と書いてあり、これは呼び出し電話のことで、近所の電話のある家が、緊急連絡の取り次ぎをしてくれていた。個人情報なんてことを、誰もなんとも思わなかった時代のことだ。
そのうち、黒い電話がうちにも来たが、そんなに日常的なものではなかった。
「今、どうしてるかなと思って」なんて気楽にかけることはなく、あの緊迫したリーンという音が家中に響くときは、何かドキッとしたもんだ。
学生時代、京都の下宿で、再び(呼)に戻ってしまった。離れの住人が電話を勝手に引くのは禁じられていて、大家さんの母屋にある電話を、夜9時半までなら取り次いでくれていた。
だから、六畳間でメシ喰ってる大家さん一家を横目に、座布団の上に鎮座した電話の前に正座して、かしこまって話したもんさ。
今の子は、生まれたときから携帯電話だ。
あんなちっちゃいもんで、どこでも誰とでもしゃべれる不思議を、なんとも思っちゃいないだろう。
でも、もしかすると、糸電話には驚くかもしれない。
何しろ、紙コップから人の声が聞こえてくるんだから。