瞳堂の月下独酌―blog―

瞳堂主人のブログです

昭和の家事

「昭和の家事」っていう映画を見た。
明治43年生まれの主婦の仕事を記録した映画だ。
「半纏をつくる」では、古い着物や帯を使って、綿の入った半纏を仕立てていく。
火鉢の炭で熱したコテで布をのし、きびきびと縫い上げ、綿を伸ばして入れ込む手つきは、とても80のおばあさんとは思えない、熟練の職人の仕事そのものだ。
「お正月の支度」は、おせち料理をつくるところ。
狭いお勝手で、段取りよく何でもこさえてゆく。
何にでも、砂糖をびっくりするほど入れるのは、甘いものの少なかった時代の、正月だけの贅沢ってのもあるけど、これはジャムと同じで、長期保存用の料理なんだな。
味、濃そうだけど、喰ってみたかった。
買ってくりゃいいなんて発想は、これっぽっちも無い。見事なもんだ。
一人で、いくつものプロの仕事をこなし、あらゆる生活文化を、一身に引き受けるその小さな着物姿は、人間国宝ものだ。
主婦を家事から解放するために、文明は発達したとも言えるけど、その分、生活の中の文化は失われた。
こういうものは大事だから残そうって言うだけじゃ、やっぱり残らないんだろう。
よく、太陽が文明を進歩させ、月が文化を育むって言うね。
月の満ち欠けの、繰り返しのリズムが、大事なものの裏には必ず静かに息づいていることを、あらためて自覚しない限りは、面倒なものはただ消えてゆくだけだ。
これは、家事を夫とどう分担するかなんていう、低いレベルの話じゃない。
日本の伝統文化の話だ。