瞳堂の月下独酌―blog―

瞳堂主人のブログです

松原橋

京の鴨川の五条大橋の一つ川上に、松原橋ってのがかかっている。
古くて巾が狭く、欄干も低いから、ある意味怖い橋だ。
その昔は、この橋が五条橋って呼ばれていたから、牛若丸と弁慶が出会ったのは、ここってことになる。
何年か前のお盆に京都に行って、古い仲間とさんざん呑んで宿に帰るとき、その松原橋を渡った。
途中、靄のような白い粒子に包まれて、前もよく見えず音も聞こえず、妙な気分になっていった。
渡り切れるのかという思いがよぎった瞬間、女房がこっちの腕をグッとつかんだ。
やがて橋を渡りきると、靄は消え、河原町通りには車が走っていた。
丁度あの頃、精神的にまいっていて、体調も悪く、なぜか死の匂いに包まれていた。
靄のなかを抜けきった時、何か吹っ切れたような気分になったのを覚えている。
翌日、地図を眺めていると、松原通を東へ行ったところに、六道の辻ってのがあった。
つまり、そこがあの世の入り口。そのむこうが鳥辺野で、昔の風葬の地だ。
あの時、女房がこっちの腕をつかまなければ、靄の中を逆もどりして、別の世界に迷い込んでいたのかも知れない。
何で今、そのことを思い出したのか分かんないけど、女房には感謝しないといけないってことなんだな。