瞳堂の月下独酌―blog―

瞳堂主人のブログです

消去

さいころ住んでいた家の前は雑木林で、裏には小さな川が流れていた。
北側の坂の途中に精神病院があって、時々、病人が脱け出し、その雑木林に逃げ込んだ。
そんなこともあって、一人では雑木林に行ってはいけないと言われていた。
川沿いにはドッグプール(野犬の屠殺場)があって、哀しげな遠吠えを毎夜聞いて眠った。
小さな川は、いつも妙なにおいがしていて、夕方になると変な色の水が流れてきた。
ボールを川に落としたら、庭の水道で洗わないと、キャッチボールを再開できない。
10年ほどそこに住んでいたけど、今思えば、消去したいような情景だな。
それでも、たまに思い出すことがある。
あの雑木林には、父といっしょに栗を拾いに行った。
川沿いの道を、母と手をつなぎ、月を見ながらぶらぶら歩いた。
あのころは、何も思わずいたけどね。
消去したい情景だけど、消し去りたくない思い出がある。