瞳堂の月下独酌―blog―

瞳堂主人のブログです

上り月

小説『吾輩は猫である』の中で、生徒から「先生番茶は英語で何と言います」と聞かれて、苦沙弥先生に「番茶はsavage teaである」と真面目に答えさせて、あとで生徒や教師に「サヴェジ・チー、サヴェジ・チー」とからかわれているが、番茶を、savage tea (野蛮な茶)と訳すとは、さすがに夏目漱石だ。
昔、漱石が先生をしていたとき、「I love you」を、生徒が「我、君を愛す」と訳した。これに対して、「あなたといると、月が綺麗だな」と訳しなさい、そう言えば伝わりますから、って言ったそうだ。
江戸時代に生まれた人は、言うことがちがう。
今夜は、旧暦九月十一日。
月は、半月を少し太らせたようなやつ。
潮は若潮小潮から大潮に向けて、干満の差が大きくなり始める。
丁度、上り月。万物の活動が、活発になる頃だ。漱石流の、「I love you」が、つい口をついて出るような月は、きっと今頃の月なんだろう。
今頃の月が綺麗かどうかじゃなくて、誰かと一緒に月を見上げたい気持ちが、ムラムラッと沸いてくるような感じに、実は、月が仕向けているのさ。