瞳堂の月下独酌―blog―

瞳堂主人のブログです

包丁

包丁は、切れなきゃダメだと思ってた。
だから、包丁を研ぎ、味覚を研ぎ澄ますんだ。
美味い料理を作るためにね。
でも、実のところ、美味いって言わせたいだけじゃないか。
随分と、薄っぺらなことをやってきたもんだ。
婆さんが、切れもしない包丁でこしらえた、大きさもバラバラな煮物なんかが、何とも言えずおいしかったりする。
これは、年季のちがいなんかじゃない。
邪心がないってことなんだろう。
素材へのこだわり、包丁の技、全体の構成、そんな狙いみたいなものは捨てよう。
からっぽになんなきゃ、底の浅い、鼻持ちならないことしか出来ない。
腕のない人間が、欲で研いだ包丁を握っても、丸い料理は生まれない。
ただ願う、心を素直に。
包丁は、切れても切れなくてもいい。